イラストレーター秋山亜軌の日記を中心としたブログです。イラストレーターとしての活動報告をはじめ、美術や映画、音楽の話、興味のある出来事など、幅広い話題を独自の意見を絡めて執筆しています。

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佐伯祐三展―芸術家への道―

先日ご近所、練馬区立美術館にて「佐伯祐三展―芸術家への道―」を見てきました。
自転車で朝早く行ったのですが、平日なのにものすごい人の入り。おじいさんおばあさんがほとんどなので、あまり祝日も平日もないのかもしれないけど、久しぶりに美術展でここまで混雑してるのみました。今年の美術展の中でもかなりの人数集客したんじゃないでしょうか。
それもそのはず、東京での佐伯祐三の大規模な個展は、1978年に東京国立近代美術館で開催した没後50年記念展以来の開催。27年ぶりの大回顧展なのです。
しかも入場料はたったの500円。油彩画・水彩画・関連資料等約140点を一堂に展示しているので、はっきりいって見ないと損。相当お得な美術展なのです。
前回、青木繁を好きな日本画家に挙げましたが、そしたら佐伯祐三もまた入れなくてはならない人ですね。この人の場合、早死しているけど、僕は天才というより努力の人ではなかったろうか、と思います。
今回の美術展を通して、最終的に見えてきたものは、この人の絵は確固たる自分のスタイルを見つけるまでの格闘の記録ではないか、ということでした。
何か一枚の作品がすごくよくて訴えてくるというよりは、全てを通すことによって佐伯という人がより浮き彫りになってくる、そういうタイプの美術展で、普段は全国にばらばらになっている作品が一同にかいしているからこそ、流れがわかるし、作品の変貌の歴史がわかる、そんなよさがありました。

佐伯祐三「裸婦」

佐伯祐三「パリ遠望」

まずは東京美術学校時代、第一次渡仏の頃の作品からスタート。
自画像が卒制のテーマだったらしく、ずらっと自画像が並んでいました。
正直な感想としてはこれはこれで面白いし、秀作ではあるのですが、この頃の絵はまだ学生らしく凡庸で、美術学校にいけばこれくらい描ける人はざらにいるなあ、という感じ。当たり前のようだけど、どんな有名画家にもこういう時代はあるんだよなあ、と改めて思いました。
この頃は、まだ印象派の画家を模倣している段階で、もちろん佐伯独自のスタイルなんてありません。ただ思ったのはすごく素直で、特に上の二枚、すぐわかるように、ルノワールとセザンヌを模倣しています。
そして第一次渡仏期に有名なエピソード、フォーヴィズムの画家、ヴラマンクとの出会いがあります。
先輩、里見勝蔵の紹介でヴラマンクと出会った佐伯は「アカデミック!」という怒声から始まり、一時間半に渡り、罵声を浴びせかけられます。
ゴッホを心の師と仰ぎ、正規の美術教育を受けずに独学で画家になったヴラマンクにとって佐伯のマニュアルに染まりきったお行儀のいい絵が許せなかったのです。

佐伯祐三「立てる自画像」

そしてひどく自尊心を傷つけられた佐伯は今までの作品を全てご破算にし、自分だけのスタイルを模索するため新たなスタートを切ります。その頃描いたのが、上の「立てる自画像」顔が塗りつぶされ、今までの自分を消して、新たな自分を探そう、という佐伯の決意が作品から読み取れます。

佐伯祐三「パリ雪景」

その後、ヴラマンクのジンクホワイトに黒と固有色を混合しながら、あらゆる物質を描き分ける技法を取り入れ、おつゆ描きと併用し、そこに勢いのある線を絡める、という描き方に変わっていきます。
モチーフは村や街頭などに変わり、今まで一枚の絵を仕上げるのに時間をかけていたのがスピードアップし、一気に描き上げるようになります。
プラス、この頃、佐伯はユトリロに傾倒し、石壁や建物、雨風に晒され、ペンキのはがれた剥き出しの壁、これらに心惹かれていきます。これが結局のちの佐伯のスタイルに大きく繋がっていくことになります。
それから一時帰国し、下落合の風景を描きます。実はつい最近、下落合で仕事してたので妙にタイムリーで嬉しかったです。だいぶ風景は変わっていますが、まだ木造の古い家や、もちろん電柱もありますし、なんとなく、昔はこうだったのかなあと情景を重ねてみることができました。
その前までパリの風景の絵だったので、いきなり下落合の古き良き日本の風景に変わると次元の違う異空間に落とされたような感覚があり、少し戸惑いました。佐伯にとってもそうだったろうなと思います。
そして第二次渡仏期。とうとう才能が暴れだします。

佐伯祐三「新聞屋」

佐伯祐三「ガス灯と広告」

佐伯の街頭を描く絵の中から、広告や新聞、看板の存在が浮き上がってきます。それはまるで街の中から自然と湧き出てきた音のように、佐伯の作品に出現します。

佐伯祐三「テラスの広告」

やがて個性の取っ掛かりとして、設けた広告だけではなく、椅子やらなにやら、全ての線が自由にリズムを奏でるようになります。

佐伯祐三「工場」

↑もうこうなると、佐伯の勢いは止まることはありません。ここまでくるともう、確固たる佐伯のスタイル。誰のマネでもない佐伯の個性を手に入れます。
しかし、その黄金時代は2年と続かずに、風邪をこじらせ喀血し、精神をきたし、30歳の若さでこの世を去ります。

と今回は一通り佐伯の人生を追うように書きました。さもないと、佐伯の絵を語るのは難しいなと思ったのでそうしました。
長くなっちゃうけど、実質的な感想はここからです。

青木繁の絵を見た時、未完成だからこそいい、と書きました。佐伯の時は、もっと踏み込んで考えて、完成させるっていうことは結果であって目的になってはいけないんだなと思いました。佐伯の絵は完成作なのですが、格闘の痕跡をそのまま残しています。封じ込めるようなタイプの作品ではありません。白鳥が優雅に泳いでいるところを描いたのではなく水面下で足をばたつかせているようなドタバタ感まで描くような、汗まみれ泥まみれの絵です。
そういうもがいている恥ずかしい部分や苦悩まで包み隠さず描く、だからこその力強さ、逞しさがあります。
時間をかけたからといっていい作品になるとは限らない。鮮度は失われるし、勢いも死んでしまう。その瞬間を描いたからこそ意味がありリアリティーに肉迫することができる。そんな教訓を得ました。佐伯の人生もまたその絵の定義に添うようにあったのかなと思いました。
技術的な面では、ペインティングナイフが活きてましたね。かなりのナイフ使いでした(笑)。分厚く引き伸ばしたり、ひっかいたり、多種多様に使われていました。船なんて一本でグイッと一気に描いたようです。筆に比べて大きく重厚に乗せられるので、迫力を出すのに効果的だなあと思いました。筆で描いているところとの差別化にもなる。2,3種類絵の具をチューブごとキャンバスにそのまま出してそれをナイフで伸ばして中途半端に色が混ざったまま、それを生かして完成させたようなものもありました。
油絵の具いいなあと思いました。アクリルじゃ、あそこまで重厚にはならない。モデリングペーストやメディウム使ってもなんか違うんだよなあ。ひび割れるし。
色は黒の訴える強さが尋常じゃなかったです。樹にも広告の文字にも使われてました。濁ってたりもするけど、油絵って水彩に比べると濁りがまだ気にならないな、と思った。茶系の色と緑、空は大抵グレー、基本的に暗い色調ではあるのですが、その中で部分的に明るい色を配して、あとは広告の文字を始め、線を乱舞させて画面にリズムを生んでいる。
線にはロートレックのような上手さはないけど、筆を動かすスピードの早さ、迷いのなさには圧倒されました。芸術にスピードって大事だな。
今回の美術展を見ながら、なぜ佐伯が広告や新聞、看板に着目したのかを考えていたのですが、その時はわからなかったんです。それから何日かして、ふと思いついたのですが、広告、新聞、看板に共通するのはモノでありながら、メッセージや情報を発信するものということではないでしょうか。
「これを買って。」とか「ここにきて。」とかそこに無造作にひしめき合うメッセージ。いわば街の声です。雑踏から生まれたメッセージ。
だから佐伯の風景画にはそこを歩く人の足音が聞こえ、メッセージを訴えてくる。街頭を描きながら、その実、そこに暮らす人々を描いている。
早くに亡くなってしまうと、かわいそうだとか無念だとか、とやかく言われるけど、僕は少なくとも死を迎える前の数年、佐伯は楽しんで絵を描いていたと思います。あれだけ自由に自分の全てをぶつけて描く絵が楽しくないわけはないと思うのです。

以下美術館レヴュー。

練馬区立美術館は本年10月1日、開館20周年を迎えます。そこで開館20周年記念として「佐伯祐三-芸術家への道-」展を開催いたします。佐伯祐三(1898~1928)の生涯は、大阪で生まれパリで亡くなるまでのわずか30年という短さでしたが、独自の油絵表現を獲得するために格闘するなかで生まれた数多くの作品は、亡くなってほぼ70年経った今も多くのファンを魅了しています。
また、短くも凝縮した芸術家としての人生は、日本の近代美術史を語る上で欠かせない存在となっています。また、佐伯のアトリエが今も残る下落合や、友人たちとの交友の舞台であった池袋・板橋など、佐伯の暮らした東京西北部は現在の練馬区周辺に位置しており、練馬区とゆかりある作家でもあります。本展では、これまで展示されなかった作品も含め、佐伯の貴重な油彩画・水彩画・関連資料等約140点を一堂に展示し、その画風の変遷や表現の比較などを行ないながら、佐伯が生涯をかけて追い求めたものは何だったのかを探ります。佐伯祐三の東京での大規模な展覧会は27年ぶりとなります。
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  1. 2005/10/23(日) 11:21:19|
  2. 美術展|
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コメント

TBありがとうございました。
初めて観る作品も多くて、とても充実した展覧会でしたね。
余談ですが、青木繁も好きです。
  1. 2005/10/29(土) 15:56:50 |
  2. URL |
  3. rieyoshi #aDL6ObWM
  4. [ 編集]

はじめまして。

はじめまして。コメントありがとうございます。
青木繁も同時期にやっていたので、いい比較対照になりました。
どちらも強い絵でそれぞれに充実した内容でした。
これからもよろしくお願いします。
  1. 2005/10/29(土) 16:12:22 |
  2. URL |
  3. 秋山亜軌(管理人) #SecOoZh.
  4. [ 編集]

TBありがとうございます。

はじめまして、こんばんは。
この度は、TBしていただき、どうもありがとうございます。

>街頭を描きながら、その実、そこに暮らす人々を描いている。

本当にそうですね。
街のざわめきやカフェでのおしゃべりまで聞こえてきそうな絵ですね。
これが佐伯作品の大きな魅力の一つなのかもしれませんね。



  1. 2005/10/30(日) 21:29:46 |
  2. URL |
  3. snow_drop #4itjknn.
  4. [ 編集]

なるほど、と思いました

はじめまして。TBありがとうございます。
鋭い佐伯評ですね。なるほど、とうなずきながら読ませてもらいました。佐伯は、まだまだ考察されなければいけないことが、沢山ある画家なんだな、ということを実感しました。
これを機に、ブログにお邪魔させてください。
  1. 2005/10/30(日) 21:35:35 |
  2. URL |
  3. 自由なランナー #-
  4. [ 編集]

こんばんは

TBありがとうございました。
私はいつも、みたままの印象しか書けないので、こちらで書か
れているような、創作する側の視点でのコメントをとても面白
く読ませていただきました。佐伯が楽しんで描いていただろう
というくだりも、本当にそうだったのだろうなと思えて、後味
よく感じました。
# 私には辛そうに見えていたので...
# 私には辛そうに見えていたので...

しれないな
  1. 2005/10/30(日) 23:30:49 |
  2. URL |
  3. lysander #-
  4. [ 編集]

こんばんは。

こんばんは。snow_dropさん、自由なランナーさん、lysanderさん、コメントありがとうございます。
snow_dropさん、
佐伯の変化を見ていると、なんとなくモンドリアンの変化に似ていると思いました。スタイルは全然違うのですが、両者とも段階を経て、スタイルを確立し、街が生み出すリズムに惹かれ、音を感じさせるような絵を描くようになります。
絵は視覚に訴えるものですが、素晴らしい芸術は聴覚などの他の五感をも行き来できるものなんじゃないかと佐伯の絵を見て、強く感じました。
自由なランナーさん、
はじめましてです。あれだけ強い作品が集まると、こっちもものすごく色々思うことがあり、受け止めるのも体力がいるなあ、と思います。それでこんな長文になってしまいました。文章的には拙いところもありますが、なるべく感じたことをそのまま新鮮な状態で書けたらと心がけて書いてますので、こんな文章で宜しかったら、ぜひいらっしゃって下さい。
lysanderさん、
佐伯にしか本当にはわからないことですが、僕は少なくとも楽しんで描いているように思えました。努力の人なので生きていたらもっともっとすごいところまで行ってた人だろうな、と思うのでそれは残念ですが、佐伯が幸せであったと思いたいという願いも込めて、あのように書きました。

ではでは、皆さんこれからも宜しくお願い致します。
  1. 2005/10/31(月) 13:41:54 |
  2. URL |
  3. 秋山亜軌(管理人) #SecOoZh.
  4. [ 編集]

音を感じる絵

秋山さん、こんにちは。
私も、そう思います。佐伯の絵は、視覚芸術とはいえ、見る者の身体全体に訴える力のある作品でしたね。
以前から、音楽と絵の関係に興味を持っていたので、佐伯の絵が音を感じさせてくれることを知っただけでも大収穫の展覧会でした。
  1. 2005/11/01(火) 13:34:36 |
  2. URL |
  3. snow_drop #4itjknn.
  4. [ 編集]

こんにちは。

snow_dropさん、こんにちは。
美術は音楽に勝てないのか、そういうことを考えていた時期がありまして、
やっぱり音楽は偉大だと思うのですが、結局その考え自体、間違ってたんだなあ、と
思うんです。素晴らしい芸術っていうのはきっとジャンルを超えたものであると、
佐伯の絵を見て改めて実感しました。
モンドリアンもカンディンスキーもクレーも音楽を感じるのですが、佐伯のすごいところは抽象表現ではなく、具象でそれをやってのけたところだと思います。
見方によっては様々に見えてくるいい美術展でしたね。
わざわざお越し頂いてありがとうございました。
これからも宜しくお願いします。
  1. 2005/11/01(火) 23:33:21 |
  2. URL |
  3. 秋山亜軌(管理人) #SecOoZh.
  4. [ 編集]

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